2012年02月19日

パリで映画を♡〜The ARTIST


Quand la femme tient la barre de sa vie N°6 −猫沢エミライブ&トーク@TRAUMARIS 恵比寿 2012 年3月2日(金)只今、絶賛ご予約中♡




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今年のフランスは寒い。次号Bonzour Japonの取材のため、パリのあるイル・ドゥ・フランス県のすぐ隣、イヴリーヌ県へ出かけた2月頭は、−10℃という猛烈な寒さだった。(パリ市内は−6℃)ここまで寒くなってしまうと、はっきり言って外に長時間出ているのは、根性云々の問題ではなく、体的に厳しい。ルイ14世他歴代の王が生まれた産屋シャトーのある広大な庭を、撮影のために歩いていた時など、2度ほど気が遠のいた。寝たら死ぬ…死ぬ!と、フォトグラファーのみかちゃんと互いに声をかけあってたもの。笑 

そもそも、忘れがちなことなんだけど、フランスは、樺太とほぼ緯度が同じの超北国なのである。だから寒いのは当たり前なのだけど、こうも寒くなってしまうと、屋外の娯楽に易々と手を出す気にもなれず、自然に屋内の娯楽へ走るのだけども、その屋内娯楽も限られたものしかないのが、これまたフランスなんですねー。カラオケもゲーセンも居酒屋もない。で、皆何をするかと言えば、映画。

フランスにおける第7番目の芸術として掲げられている映画は、国民にとって日常には欠かせないもののひとつになっているなあと思うのは、ただの提議としてだけでなく、実際に様々なクラスの人が非常によく映画を見ていると、肌で感じる。たとえば、魚屋のムッシュから「今日は早く仕事を片付けなくちゃ!ピーター・グリナウェイのリバイバル上映がカルチエ・ラタンであるんだよ。」なんてすらりと出てくる。グリナウェイなんて、日本だと映画通しか知らない名前でしょう。

そして、映画そのものの値段も安い。設備の整ったMK2、UGC、Gaumontなどのグループ企業が経営する大型映画館でも、単発チケットで10€程度。それが、会員証を作ってしまえば、月20€代の会員費で見放題!毎月2本見れば元が取れてしまうから、映画通でなくても、大抵の人がどこぞかのグループ映画館の会員証を持っている。ちなみに、レンタルDVD・ビデオショップもあることはあるんだけど、はっきり言って置いてある数もラインナップもしょぼく、日本のTSUTAYAみたいな充実度とは雲泥の差。それならば、まだビブリオテーク(街の図書館)のレンタルDVDの方がずっといい映画が揃っているという具合。名監督のレトロスペクティヴや、実際に本人が登場するレクチャーやトークショーも頻繁に開かれているので、足を運ぶ機会も多い。それにね、映画っていうのは、そもそもあの大スクリーンで観るのが前提で作られているので、何もちまちま家の小画面で観るこたない。っていう考え方も定着しているのが、さすが第7の芸術・映画とされるフランスらしいところかな。


そんなパリで、映画を観ることは私にとって最大の娯楽であると共に、ぜひやりたい!ことのひとつだったのだけど、ここ数年、長くて2ヶ月という短い滞在のため、仕事が最優先になってなかなか映画を観られないでいたのだけど、今回は、うまく時間をやりくりして3本観た。その中で、一番がつんときたのが、ミッシェル・アザナヴィシウス監督の「The ARTIST」だった。

ところで、フランスで映画を観る時、大抵参考にするのが、街に流布している“前評判”(一般の映画レベルが高いので、意外と当てにできる)と、各映画館などが主催しているサイトでのバンドアノンス(予告編フィルム)。ちなみに、劇場用パンフレットなど作らない国なので、もっとつっこんだ映画の詳細は、自らインターネットなどで探す、もしくは新聞や映画雑誌の評などを見るのが一般的。そんな中、この作品の前評判は異常に高かった。映画上映時間近くに出かけても、いつも満員御礼だったため、映画好きの友達がサイトで私の分のチケットを予約してくれた。そして観た。


物語の舞台は1927年、アメリカ・ハリウッド。無声映画全盛のこの時代、時の人として名を馳せていた名優ジョージ・ヴァレンティンは、キザな仕草とウエットに富んだ演技で、スターの名声を欲しいままにしていた。駆け出し女優のペピーは、そんなジョージに尊敬の念と共に深い愛情を持っていたが、ひょんなことから彼の映画の端役に選ばれ、地道なスターへの階段を登り始める。そんな中、映画業界はトーキー映画への転換期を迎え、セリフのあるトーキー映画に疑問を抱くジョージは、あくまでも無声映画にこだわり、彼の輝かしい地位にかげりが見え始めるーー。

と、ストーリーは至ってわかりやすいものだが、この映画のすごいところは、ごく一部を除いた全編が、まさに無声映画時代の手法で描かれているところ。セリフにたよらないストーリー運びには、役者の表情、些細な身振り手振り、全身から溢れる魅力など、本来の役者の実力がごまかしのきかない形で映し出される。加えて、カメラのカット割、画角、アイディアなど、映画を作る基本中の基本がどれだけ高度なものかにかかってくる。近年、当たり前となったCG満載の映画手法からまさに時代を逆行した「映画とはいったいなんだったのか?」という、根源的な視点に立ち返った作品なのだ。しかも、ただ昔の手法を真似ただけではない。「セリフのない白黒サイレント映画なんかに夢中になれるの?」とお思いの方にこそ、ぜひ観て欲しい。栄枯盛衰に人生を翻弄されるアーティストの、切なく胸しめつけられる物語に、感涙し、気がつけばこれがサイレント映画だということを、忘れてしまっているだろう。

いやもう、泣いたよ…。隣に座っているお客さんが、私の号泣っぷりを観てぎょっとするほどに。笑 シンプルで人生の痛みと素晴らしさを的確についた無駄のない物語にも泣いたが、何より、監督とこの映画に関わった人々の、映画への愛に心底頭が下がる思いだったのだ。「映画は死んだ。特にフランス映画は。」と言われ続けた昨今に、この作品は、真の映画大国であるプライドと、愛、その正しい解釈の表明として、華々しい刻印を打った。大げさじゃなくて、この映画は、映画史にひとつの節目を作った記念すべき作品だと言える。

2011年のカンヌ国際映画祭で、あまりの前評判の良さに急遽コンペティション部門に格上げされ、あっという間に主演男優賞を受賞。その勢いは増し、2012年度アカデミー賞の最有力作品へと躍り出た。

私ね、仕事がらいろんな映画を観て、いろんな評を書きますよ。だけど、この作品に関しては、あくまで超個人的な感想しか述べません。じゃなかったら、この途方もなく素晴らしい作品に対して失礼だし、この作品に失礼を働くということは、映画史そのものに泥をかける行為だと思ってます。と、書いている側から思い出して涙が溢れてきちゃう。


パリから日本へ向うAIR FRANCEの機内。「The ARTIST」のフルバージョンが、機内オンデマンドで放映されていて、さらに2回連続して観た。2回とも号泣してしまい、またお隣のお客さんをびびらせてしまったのだけど、そんなことかまうもんかい。ちなみに、この映画はぜっったいに劇場で観てください。小さなスクリーンで観ても、きっと良さは100分の1になってしまうだろうから。映画館で観なければ成立しない、本来の正しい映画。ぜひ、貴方も劇場で映画史の一部になって欲しい。



◎ The ARTIST〜アーティスト
2011年 フランス作品 
監督/ミッシェル・アザナヴィシウス 
出演/ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ、ジョン・グッドマン
* 4月7日(土)シネスイッチ銀座、新宿ピカデリー他にて全国順次公開


□フランスMK2の「The ARTIST」バンドアノンス
 http://www.mk2.com/film/artist


♡「The ARTIST」こぼれ話
歴代の名作には欠かす事のできない名脇役として、かしこいわんこが登場する。(たとえば、イヴ・ロベールの“ぐうたらバンザイ”(1969)など)そんな名作のオマージュとして、この映画にも主人公のジョージの相方としてわんこが登場するが、これがまた泣かせるのなんの…。ちなみにこのわんこ、カンヌでPalm dog 賞を受賞して(笑)アメリカのTV番組に出演したんだそう!(上記、友達情報♡)その映像がコチラ。
http://www.palmdog.com/palm-dog-uggie-and-the-ellen-degeneres-show/







posted by 猫沢エミ at 02:45| パリ ☁| フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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