2012年06月25日

Les Neiges du Kilimandjaro~日常、という人生の物語。


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フランス人は感情表現が豊か+エレガントなので、哀しいことも泥臭いことも、日本人の自分たちが同じくするよりも、なぜだかドラマチックに見える。というのは、おそらく「隣の芝生は青い」現象のインターナショナル版で、フランス人から見た日本人は、また別の感慨を覚えるのかもしれない。どちらにせよ、いつも思うことは、心の根底に流れる感情だとか、日常の小さな幸、不幸は、何人でも大差がないということ。


そんなことをしみじみ再確認できる映画を、渡仏の直前に見た。監督のロベール・ゲディギャンは、1953年、南仏の港街マルセイユに生まれる。それから彼は映画監督になったわけだけれども、物語は常にマルセイユを舞台に作られている。まるで、山田洋次といえば寅さん、寅さんといえば葛飾柴又…(山田監督はもちろん違うものも撮っているけれども)というように。

1998年「幼なじみ」1997年「マルセイユの恋」など、日本でも彼の作品を見た方は多いのではないだろうか?人が死ぬような衝撃的な事件も、奇抜な設定も演出も一切ない。ゲディギャンが常に描こうとするのは、どこにでもいる地方の田舎町でつましく暮らす、普通の人々だ。その人々が、人と出会い、恋をし、悩みを抱え、それを乗り越えようとする当たり前の日常から、私たちにも身に覚えのある孤独や挫折の苦い想いを丁寧にすくってくれる。

「Les Neiges du Kilimandharo=キリマンジャロの雪」は、アーネスト・ヘミングウェイの同名短編小説のタイトルだが、物語のベースは、ビクトル・ユゴーの長編詩「表れな人々」に着想を得て作られた。


物語は、マルセイユの港で、とある労働組合員がリストラのくじを引く場面から始まる。そのくじ箱を差し出すミシェルは組合長として、長年組合員を大切に仕事をしてきた。ミシェルは自分の立場を悪用することなく、くじ箱に自分の名前も加え、リストラの対象を買って出た。引退するにはまだ早く、かといって再就職は難しい年齢のミシェルは、突然失業者になってしまう。そんなミシェルを影で支えるのは、今年結婚30年を迎える妻のマリ=クレールだった。夫が自ら選んだ失業の選択に、マリ=クレールは文句ひとつ言わず、いつも通りに家政婦のパートへ出る。老婦人を面倒見るマリ=クレール、しかし、雇い主である老婦人の娘は、上から目線の小馬鹿にした態度でマリ=クレールを見下すのだった。ある日、子供たちがミシェルとマリ=クレールのために、サプライズパーティーを企画する。そこで、カンパで集めたお金とアフリカ旅行のチケットをプレゼントされ、感激するふたり。ところが、元組合員でミシェルと同様にリストラされたクリストフが、それを遠目で見ていた。数日後、クリストフが悪い仲間たちとミシェルの家を襲撃し、お金とチケットを強奪。しかし、ひょんなことから、犯人がクリストフであることがわかり、ミシェルは怒りに震えると当時に、なぜ彼がそんな暴挙に出たのか?むしろその理由に惹かれてゆくのだった。同じくして妻のマリ=クレールも、クリストフがやむを得ない事情で、ふたりの弟を面倒見ていることを知り、気がつけば、こっそりとクリストフの弟たちの母代わりになってゆく。

ゲディギャンが描こうとしたミシェルとマリ=クレールの善意は、負の歴史を乗り越えるために必要な、受容と許しではないか?どうして、殴りつけられ、怪我を負わされ、その上金品まで奪われた相手に、そこまでの善意を尽くせるのか?小さな不幸と小さな許し、その連続で人生は出来ている。つましくも、懸命な、ごく一部の人を除いた庶民の暮らしに横たわる優しい「匂い」。成功とは縁のない、やつじつまの合わない人生の悲喜こもごも。それをおしつけもなく描くのなら、ゲディギャンをおいて他にはいない。


ところで、マルセイユは私の大好きな街。地中海の紺碧の海、陽気な人々。あまりに好きすぎて、一度なぞ移住を真剣に考えたこともあったっけ。そのときフランス人の友達に散々言われたのは「不況が深刻だからねえ。ヴァカンスならいいけど、地元至上主義の閉鎖的な側面もあるから、生活するには大変なところだよ。」ということだった。日本と同じく、地方の港街の不況、失業。それにまつわる人生の紆余曲折。ゲディギャンのマルセイユ映画を見ると、フランス人も、私たちとなんら変わりない、ひとりの人間なのだと肌で感じることができる。


● Les Neiges du Kilimandjaro=キリマンジャロの雪

2012年6月9日(土)より、岩波ホールにて公開中♡
全国順次ロードショー
http://www.kilimanjaronoyuki.jp/







posted by 猫沢エミ at 04:39| パリ ☔| フランス映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする